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これは「廃棄物」なのか?
1 原料や飼料になる物
清涼飲料水製造業者から排出される茶ガラ(茶葉の絞りかす)を,培養土メーカーが買い入れ,乾燥させて培養土の原料にしている例があります。
また,製麺(パスタ)業者から排出される麺生地の端切れを,肉牛生産農家が買い入れ,肉牛の飼料として食べさせている例があります。
しかし,培養土メーカーが支払う茶ガラの代金も,肉牛生産農家が支払う麺生地の端切れの代金も,排出事業者からこれらを運搬して来る運賃を賄う額に足らず,運賃は排出事業者がこれを負担しています。
このような,茶ガラや麺生地の端切れは,廃棄物なのでしょうかそれとも有価物なのでしょうか。また,その収集運搬の過程や,原料・飼料として利用される過程ではどのように扱われるのでしょうか。
2 そもそも廃棄物とは何か?~おさらいと「総合判断説」
廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法。以下「法」といいます。)は,「『廃棄物』とは,ごみ,粗大ごみ,燃え殻,汚泥,ふん尿,廃油,廃酸,廃アルカリ,動物の死体その他の汚物又は不要物であった,固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く。)をいう。」と定義づけています(法2条1項)。
前述の茶ガラや麺生地の端切れは,廃棄物に当たるのでしょうか。
廃棄物に当たるか否かについては,有名な「おから裁判」(最高裁判所第二小法廷決定平成11年3月10日)という判例があります。
「おから裁判」とは,産業廃棄物処理業(収集運搬業及び処分業)の許可を得ずに豆腐製造業者から大豆の搾りかすであるおからを逆有償で引き取って飼料や肥料を製造していた業者が,無許可営業に該当するとして起訴されたところ(法25条1項1号,14条1項・6項),業者側がおからは有価物であり廃棄物ではないから,業として産業廃棄物の収集運搬も処分も営んでいないとして無罪を争った事案です。
最高裁判所は,廃棄物か否かは,
A 物の性状
B 排出の状況
C 通常の取扱形態
D 取引価値の有無
E 占有者の意思
等を総合的に判断して決するとする「総合判断説」に立ち,おからは,腐敗しやすいこと(上記A),殆どの豆腐製造業者は廃棄物として扱われていること(同B,C,E),大部分が無償又は逆有償で引き取られていること(同D)から,廃棄物であると判断しました。
逆に言うと,例えば良質な国産大豆を使っている豆腐製造業者が,他の具材と一緒に味付けしてお惣菜にしたり,自然食志向の消費者向けのクッキーやスティックに加工したりする原料として他の食品製造業者にしかるべき対価で販売しているような場合であれば,「総合判断説」の立場では,おからは廃棄物ではないと判断されることになります。
3 無償物の場合~「総合判断説」の適用に際しての問題点その1
以上のように「総合判断説」では,前記A~Eの要素を総合的に判断するとはいえ,廃棄物か有価物かの判断においては,取引価値の有無,要するに売り物になるか否かが特に重要な要素となります。
そうなると,無償譲渡される物は,有用ではないから無償で譲渡されるわけであって,基本的に廃棄物であるということになりますが,実際には必ずしもそうではありません。
無償譲渡される物には,①受入先が無償で引き取りに来てくれる物と,②排出者が自らの費用負担で受入先まで搬送しなければならない場合があり,それぞれ場合を分けて考える必要があります。
まず,前記①の場合,自らの費用負担でわざわざ引き取りに来てくれる受入先にとっては価値のある物すなわち有価物であると考えられます。
とはいえ,受入先にしてみると,特に使い途はないが,引き取っても困らないから,排出事業者との取引関係の維持のために引き取っているという場合があるかもしれませんから,受入先が身銭を切って引き取りに来ていたとしても,実際に受入先においてこれを安定的に使用する需要があるか否かを見極めたうえでなければ,有価物か廃棄物かは判然としないといわなければなりません。
これに対し,前記②の場合,受入先にとっては,無償で引取費用も掛からないからこそ何らかの用途に供する需要があるが費用をかけてまで引き取る程の価値はない物,排出事業者にとっては,無価値で費用を負担してまでも受入先に引き取ってもらいたい物,ということになり,明らかに廃棄物となります。
4 運賃が販売代金より高額な場合~「総合判断説」の適用に際しての問題点その2
「総合判断説」では,廃棄物か有価物かの判断において,取引価値の有無,売物になるか否かが特に重要な要素となりますが,では,運賃が販売代金を上回る場合はどうなるのでしょうか。
受入先が,有償で購入してくれるとしても,そこまでの運賃の方が高い場合には,排出することに費用が発生するのですから廃棄物になってしまうと判断される可能性もあります。
この点については,以下に紹介する環境省の通知により,運搬中は廃棄物だが,受入先に引き渡された時点で,有価物となるという解釈が示されています。
少し長くなりますが,この「『規制改革・民間開放推進3か年計画』(平成16年3月19日閣議決定)において平成16年度中に講ずることとされた措置(廃棄物処理法の適用関係)について」(平成17年3月25日 環廃産発050325002)の一部を抜粋します。
第四 「廃棄物」か否か判断する際の輸送費の取扱い等の明確化
平成3年10月18日付け衛産第50号厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課産業廃棄物対策室長通知で示したとおり,産業廃棄物の占有者(排出事業者等)がその産業廃棄物を,再生利用するために有償で譲り受ける者へ引渡す場合の収集運搬においては,引渡し側が輸送費を負担し,当該輸送費が売却代金を上回る場合等当該産業廃棄物の引渡しに係る事業全体において引渡し側に経済的損失が生じている場合には,産業廃棄物の収集運搬に当たり,法が適用されること。一方,再生利用するために有償で譲り受ける者が占有者となった時点以降については,廃棄物に該当しないこと。
なお,有償譲渡を偽装した脱法的な行為を防止するため,この場合の廃棄物に該当するか否かの判断に当たっては特に次の点に留意し,その物の性状,排出の状況,通常の取扱い形態,取引価値の有無及び占有者の意思等を総合的に勘案して判断する必要があること。
(一) その物の性状が,再生利用に適さない有害性を呈しているもの又は汚物に当たらないものであること。なお,貴金属を含む汚泥等であって取引価値を有することが明らかであるものは,これらに当たらないと解すること。
(二) 再生利用をするために有償で譲り受ける者による当該再生利用が製造事業として確立・継続しており,売却実績がある製品の原材料の一部として利用するものであること。
(三) 再生利用するために有償で譲り受ける者において,名目の如何に関わらず処理料金に相当する金品を受領していないこと。
(四) 再生利用のための技術を有する者が限られている,又は事業活動全体としては系列会社との取引を行うことが利益となる等の理由により遠隔地に輸送する等,譲渡先の選定に合理的な理由が認められること。
5 茶ガラや麺生地の端切れはどうなるのか
ここまで述べてきたところから,茶ガラや麺生地の端切れは,培養土メーカーや肉牛生産農家への販売価格よりも運賃の方が高額の場合です。
いずれも清涼飲料水製造業者,製麺業者から排出されてから培養土メーカーや肉牛生産農家に搬入するまでは廃棄物とされ,その運搬は廃棄物収集運搬業の許可を受けた業者に委託しなければならないことになります。
しかしながら,培養土メーカーや肉牛生産農家に引き渡された時点で廃棄物ではなくなるのですから,両者とも廃棄物処分業の許可は不要ということになります。
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弁護士三堀 清(みほり きよし)
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私どもは、一般民事・刑事事件の分野並び企業法務及び取引に関する分野での経験に裏打ちされた専門性と新しい法律問題にも斬新な手法をもって挑戦する柔軟性を武器に、迅速な対応により、依頼者の方々に結果をもってお応えすることを使命として、日々実務を通じた研鑽を進めております。
- 所属団体
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- 第二東京弁護士会
- 経歴
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昭和32年 生まれ
昭和56年 早稲田大学法学部卒業
昭和60年 司法試験合格平成8年
早稲田大学大学院法学研究科(企業法務専攻)修了平成9年 港区新橋に三堀法律事務所設立
平成14年 三洋投信委託㈱(現プラザアセットマネジメント㈱)監査役就任(平成16年まで)
平成15年 千代田区有楽町に事務所を移転
平成16年 東京簡易裁判所調停委員に就任(現任)
平成17年 ㈱ニチリョク監査役就任(平成29年まで)
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